スポーツ戦略論② サッカーにおける「ボール回し」
- taisyo takaguchi
- 3 日前
- 読了時間: 6分
以前から随分と時間が経ってしまったが、この企画を改めて続けようと思う。
さて、第2回、というか本格的な戦略に関する解説は初回となるこの記事では、サッカーを題材に取り上げる。
多くの人が知っていると思うが、サッカーとは1つのボールを手を使わずにゴールまで運び込むスポーツである。細かいルールを書き出すとキリがないので省略するが、そのシンプルさから多くのプレイヤーがプロとして活躍し、またそれに魅入る観客も他のスポーツに比べて世界的に多いと言えるだろう。
そんなサッカーだが、4年に1度、ワールドカップが行われる。一次予選から勝ち抜き、最終予選まで勝ち抜いた32チームが本選へ出場する。
本選では32チームが4チームずつ、8グループに分かれて総当たり戦を行い、上位2チームが決勝トーナメントへと進む。すなわち本選では3戦で上位に入り、その後トーナメントで4回勝ち続ければ世界一の栄光を手にすることができる。
今回は、そんな総当たり戦で行われた、日本の「ボール回し」を解説する。
1 当時の状況
2018年に行われたワールドカップでは、日本はポーランド、セネガル、コロンビアと一緒だった。リザルトは以下に示されている。
当時のルールとして、勝てば勝ち点3が、引き分けなら両チームに1点が、負ければ0が加算されるシステムである。
順位 | チーム | 勝点 | 得失点差 | 得点 | 失点 | 備考 |
1位 | 日本 🇯🇵 | 4 | +1 | 4 | 3 | コロンビアに勝利、セネガルと引き分け |
2位 | セネガル 🇸🇳 | 4 | +1 | 4 | 3 | ポーランドに勝利、日本と引き分け |
3位 | コロンビア 🇨🇴 | 3 | +2 | 4 | 2 | 初戦で日本に敗北、次戦でポーランドに大勝 |
4位 | ポーランド 🇵🇱 | 0 | -4 | 1 | 5 | セネガル・コロンビアに連敗 |
この時点で、ポーランドは予選敗退が確定している(最終戦で勝っても勝ち点3となり、日本とセネガルに追いつけない)
グループリーグ最終戦は、日本対ポーランド、セネガル対コロンビア。ここで注目して欲しいのは、各国の状況である。
一番わかりやすいのはポーランドとコロンビアで、ポーランドは前述の通り既に敗退が確定、そしてコロンビアもセネガルに負ければ敗退確定、ただし勝てば勝ち点6となり、進出が確定する。
少し複雑になるのは、セネガルと日本である。
セネガル
勝利・・・勝点7で進出確定
引き分け・・・勝ち点5で進出確定(日本が負ければ1位通過、それ以外でも2位が確定)
敗北・・・日本の結果次第(日本が勝つか引き分けで敗退、負ければ???)
日本
勝利・・・勝点7で進出確定
引き分け・・・勝ち点5で進出確定(セネガルが負ければ1位通過、それ以外でも2位が確定)
敗北・・・セネガルの結果次第(セネガルが勝つか引き分けで敗退、負ければ???)
つまり日本とセネガルは、勝つか引き分けで良かったのである。
ところがスポーツの神様というのはどうも面白くしたいようで、コロンビア戦の後半37分にコロンビアが1点を入れ、セネガルが窮地に追い込まれる。
この時点で日本はフェアプレーポイント(警告をもらった数など)の差で、決勝に出られることが分かっていた。それはたとえポーランドに負けたとしても。そこでチームの監督は警告等を貰わないようチームに厳しくつたえゲームを進めていくことになる。
一方でポーランドは、FIFAランキング8位でありながら既に敗退が確定と、自国のファンからするとブーイング真っ只中。せめて1勝して帰るという気迫のもと59分に1点を入れ、日本になんとしても勝つという気概を見せていたのだが。。。
2 賛否両論の「ボール回し」と、スポーツにおける「勝利」
この1点が入れられた日本は、遂に今回のメイン戦術であるボール回しへと入る。つまりは積極的に攻撃することをやめ、このまま警告等をもらわず、得点差で敗退することもないようにシフトしたのである。これに対しポーランドも積極的にボールを取りに行くことはなく試合は終了。結果としてポーランドが日本に勝ち、日本はセネガルに対してフェアプレーの差でトーナメントに進出することとなった。
一部のメディアではボール回しをしてフェアプレー数で進出という皮肉な記事を書いたところもあったが、実際このボール回しは大きな議論を巻き起こした。
プレイヤーの観点からすれば、今回のボール回しは一個の手段にすぎず、しかもそれがルールで違反されていない以上は何も問題ない。もっと言えば、ボール回しをするだけでトーナメントに進出できるだけのマージンをそれまでの2試合、いや2試合と75分ほどで築いていたとすら言える。チームにとっては「グループリーグ突破」が優先である以上、リスクをできる限り抑えて目標に向けて行動するのはむしろ褒められた点であると言える。日本代表は目標に向けて柔軟に対応したとすら考えられるだろう。
ボール回しについて、面白いサイトがあるので興味がある人はそちらをご覧いただきたい。順天堂大学の1ページだが、ポアソン分布とゲーム理論からこの判断の有効性を示している。
一方で観客の視点からすれば、これほどつまらない試合を見せられて。という気分になるのも理解できる。ボールの奪い合い、高度な駆け引きやテクニック、豪快なシュートを見に来ているのであって、誰もそんな光景を見たいと思っている人はいないはず。
観客自身も、おそらくファンであればこの戦術自体に理解はするはず。しかし頭では理解しても、心では納得できない人が大勢いたことだろう。そのチグハグ感が更に議論を加速させていった。
3誰がためのワールドカップか
そもそもワールドカップは、なんのために行われるのだろうか?世界一を決めるためか?経済効果を産むためか?国際親善か?
そもそも僕ら、というか観客側の人間は、一体何を求めているのだろうか?
スーパープレー?良い成績?ファン同士の交流?
プレイヤーが求めるのはただ1つ、純粋な成績である。そこに美学や精神はあれど、根底は勝つことが絶対の条件である。
このプレイヤーと観客側のチグハグを埋めるためには、一体どうしたらいいのだろうか。
4課題
・自分がそれぞれの立場に立ったら、どんな選択をするか。
・ボール回しを悪とする場合、それを改善できる案は存在するか。
・これに似た事例(ヒホンの恥)を調べて、相違点について理解する。
なんか課題とか出したらそれっぽそうだなと思ったけど、果たしてやる人はいるのだろうか。
案外暇な時に考えると、サッカーに関する知見が広がるかもしれない。
次回はバスケについてまとめてみようかな。フリースロー拒否とかハック・ア・シャックとか。
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